研究概要 |
我々は,側頭葉てんかんの実験モデルであるキンドリング現象と脳内ポリアミン代謝について研究してきた。本研究では,ポリアミンアセチル化反応とキンドリング現象との関連性に着目して検討した。実験には,ペンチレンテトラゾール(PTZ)の反復投与による薬物キンドリングモデルを用いた。ポリアミンアセチル化反応の活性は,ポリアミン酸化酵素阻害剤(MDL72,527)の投与によるN-アセチルポリアミン類(N-アセチルスペルミジンとN-アセチルスペルミン)の蓄積を調べることにより,間接的に測定した。その結果,PTZキンドリングを誘導したラットの大脳皮質および脳幹で,N-アセチルスペルミンの増加が観察された。また,N-アセチルスペルミジンの増加は脳幹部のみで見られた。これらの結果は,キンドリングによりポリアミンアセチル化反応が活性化され,特に大脳皮質でこの活性が高いことを示している。また,MDL72,527を前処理したキンドリングラットでは,GABAとプトレッシン濃度の減少が観察された。PTZによってけいれん閾値を測定した結果,MDL72,527を処理したラットではけいれん閾値の低下が見られた。これまでの我々の研究により,プトレッシンがキンドリングの発達を抑制することが示されており,また,GABAは代表的な抑制性神経伝達物質として知られている。以上より,ポリアミンアセチル化反応が,てんかん状態の脳内で抑制物質の供給に関与している可能性が示された。GABAの一部はプトレッシンから生合成されることが知られており,プトレッシンの抑制作用が直接的なものか,あるいはGABAの作用を介したものか,興味ある問題である。
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