〔目的〕児童期発症分裂病のうち、前駆期に強迫症状を呈する群は呈さない群に比べて、器質的障害を有している可能性が高く、精神発達障害との関連性が示唆されるのではないかと考え、頭部MRIにおける脳の形態学的異常に関して調査した。 〔対象と方法〕対象は奈良県立医大精神科を受診し、発症年齢が17歳以下でDSM IVにて精神分裂病と診断された患児のうち、本人及び保護者の同意を得てMRI検査が施行された30例である。このうち前駆期に強迫症状を呈する群(強迫(+)群)13例と呈さない群(強迫(-)群)17例に大別し、さらに対照群として、年齢をマッチさせた神経症の患児17例を選び、3群の比較検討を行った。 海馬、前頭葉、脳梁、脳梁膨大部、被穀の各部分の面積を測定し、全脳実質面積に占める%を求め面積比としてそれぞれの統計学的検討に使用された。脳の各部分の面積比は、まず強迫(+)群、強迫(-)群、対照群の3群間で比較検討され、次いで各面積比と臨床的指標とした罹病期間、前駆期間、PANSS評価、GAF尺度との関連性について検討した。 〔結果〕強迫(+)群、強迫(-)群、対照群の3群間での各面積比を比較検討したところ、左海馬において、強迫(+)群は有意に小さかった。前頭葉、脳梁、脳梁膨大部、被穀では有意差は認められなかった。 次に各面積比と臨床的指標との相関を検定したところ、強迫(+)群では脳梁とPANSS陽性症状との間に正の相関、前頭葉と罹病期間との間に負の相関が認められた。 〔結語〕今回の研究で得られた前駆期に強迫症状を呈した児童思春期発症分裂病において左海馬が有意に小さいという結果は、分裂病の神経発達論的成因仮説を支持するものと考えられた。
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