昨年度に引き続き、慶應義塾大学病院及び関連施設での調査を行い、初老期以降に発症した分裂病圏に相当する症例を集積した。こうして集められた症例は症候学的に以下の三群に分けられることができた。 第一群は慢性の幻覚妄想状態を呈し、情意の障害はないかあってもごく軽度なものである。歴史的にはRothの遅発パラフレニ-(1955)、Janzarikの接触欠損パラノイド(1973)、Postの老年期持続性被害妄想状態(1966)に相当する病態である。 第二群は、情意障害を中核とする一群で、抑うつ症状で始まり、不安・焦燥に移行し、やがて情意鈍麻、緊張病症候群を呈する。Sommer(1910)、Jacobi(1930)の遅発緊張病、M.Bleulerの遅発分裂病の一部に相当する。この病態は、今世紀前半に疾病分類学上の位置づけについての議論があり、今日は初老期うつ病の一部と見なされていることも少なくないが、我々は症候学的にはこれらの一群は躁うつ病圏ではなく、分裂病圏に位置づけられるべきであると考えている。 第三群は前記の二群に比べると稀なもので、挿話性の錯乱状態を繰り返すもので臨床的にはせん妄との鑑別が困難な一群で、青年期の非定型精神病と症候学的に共通する部分が大きい。 最終年度はこれらの症例をまとめ、代表的な症例を集めた症例集と遅発分裂病に関する文献を歴史的にまとめる作業を行う予定である。
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