高齢発症の内因精神病のうち、遅発分裂病について、その概念の歴史的変遷を振り返り、自験例を詳細に分析し今日の臨床像を明らかにした。 歴史的には、人格や情意が保持された慢性の幻覚妄想状態を呈する一群、抑うつ症状に始まりやがて分裂病性陰性症状が優位になり、経過中に緊張病症状を呈し、多くの例で症状が残遺する一群、せん妄様の意識障害を反復する一群の三群が、遅発分裂病として報告されてきた。我々はこれまで集積してきた症例から、今日においても症候学的には遅発分裂病はこれらの三つの下位群におおよそ分類できるのではないかと考えている。これら三群を我々は順に、遅発パラフレニー群、遅発緊張病群、非定型精神病群と命名した。遅発パラフレニー群はさらにパラノイアや敏感関係妄想に近い慢性妄想型と、シュナイダーの一級症状を含む、より青壮年期の妄想型分裂病に近い幻覚妄想型に分けることができる。遅発緊張病群は抑うつ症状に始まり、不安・焦燥期、幻覚妄想期、緊張病症候群、残遺期というように順を追って病像が展開する完全型と、病像の展開が途中で頓挫し断片的な緊張病症状しか呈さないもの(不安・焦燥型、抑うつ妄想型)や病像の展開が明確ではなく病初期から残遺期にみられる人格変化が明らかになりやがて緊張病症状を呈するもの(残遺型)といった不全型がある。 遅発分裂病の治療についても我々の臨床経験から若干の考察を加えた。遅発パラフレニー群は薬物療法と環境調整が重要である。多くの例で抗精神病薬が有効であるが、病識が得られず再発する例も少なくない。一方、遅発緊張病群は薬物療法に反応しないものが多く、とくに緊張病症候群を呈するようになると抗精神病薬の大量投与は悪性緊張病への移行を助長する可能性がある。この時期には電気けいれん療法が有効である。
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