研究概要 |
1. 自閉症にみられる「知覚変容現象」の概念を提起した。この現象は幼児期および思春期に少なからず認められ、自閉症児によって環境世界がそれまでとは異なった様相で知覚されていることを推測させる行動が出現した事態を指す。知覚の様相により(1)「知覚変容現象」、(2)「聴覚変容現象」、(3)「状況変容現象」に分類した。この現象は、自閉症の知覚様態が加齢を経ても無様式知覚の活発な働きに支配されているがため、主体の生理的・心理的状態如何によって容易に変容してしまうこと、さらに安定感が乏しく、強い不安に圧倒されている状態あっては、知覚された対象が迫害的な相貌性を帯びやすいこと、などの要因によって生起することを想定した。この概念提起は自閉症の発症ないし種々の症状発現機序をより現象学的に把握することを意図し,彼らの精神内界を理解する契機となりうるとともに,分裂病との異同をめぐる議論に対して両者の関連性を再度追求してゆくための一つの試論として有用であることを主張した。 2. 自閉症の病態が長期経過の中でどのように変容していくかを、187例の18歳以上の自閉症者を対象に行動分析した。行動分析はAchenbach′s Child Behavior Checklist(CBCL)の修正版を用いた。その結果、社会性の障害、コミュニケーション能力の障害、強迫的行動様式の三大症候の中で、知的発達水準や言語発達水準如何に関わらず最も改善しにくい行動は、強迫性に根ざした行動群であることが明らかとなった。今後自閉症の成因を検討する上で、強迫性の成り立ちを重視する必要性を説いた。
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