アルツハイマー病の診断にはさまざまの指標が開発されてきたが、軽症の場合や、病初期の段階では診断に困難をきたすことが多い。これは従来の手法一つの指標を用いていたためであった。そこで、質的に異なったいくつかの指標を組み合わせることで、指標を単独で用いるよりも診断の信頼性を高めることができるのではないかと考えた。本研究では、脳の形態学的評価指標であるところのMRIにおける萎縮の程度と、機能的評価指標であるところの脳波周波数分布による除波化の程度を評価し、これらの指標を組み合わせた際の診断能力について検討した。脳波周波数分析によると、対照群に比べてAD群で、デルタ帯域とシ-タ帯域のGFPが増加し、アルファー1帯域とベータ-1帯域とベータ-2帯域のGFP減少していた。MRI volumetryでは脳実質体積、左右の側頭葉体積および左右の合計、左右の側頭葉内側体積および左右の合計がAD群で有意に低値であった。判別分析を行ったところ、選択された指標は、左の側頭葉内側体積、アルファー1帯域およびシーター1帯域のGFPの3つであった。MRIの指標は7つのうちそのいずれもが有意差を認めたものの、判別分析では一つの指標に絞られた。それぞれの指標が単独で高い鑑別力を有してもそれらがみな選択されるわけではない。指標同士の相関が低いほど、すなわち互いにより独立な指標を組み合わせるほど判別力か高まるからである。上記3つの指標の組み合わせにより、34例中32例すなわち94%の症例が正しく判別された。判別が誤っていたのは、2例の対照群でそれらはADと診断されていた。3つの指標で94%の判別率を得たことは注目に値した。MRIの萎縮の程度すなわち形態学的変化の指標と脳波すなわち機能的指標という、質的に大きく異なった指標を組み合わせることによりきわめて高い判別力が得られたものと考えられた。
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