我々は感情障害においてHeat Shock Proteinの発現に何らかの異常が認められるのではと作業仮説を立てた。予備的研究としてうつ病患者(N=18)と健常対照者(N=10)の末梢血リンパ球でのHSP70 mRNAをRT-PCR(reverse transcript-polymerase chain reaction)法を用いて検索した。HSP70mRNAの5'末端より447bpに設定してRT-PCRを行った結果健常対照群では全例447bpの既報のmRNAをみとめたが、うつ病群では全例において285bpのmRNAを検出した(うち1例はいずれのHSP70mRNAも認めた)。285bpのmRNAのシークエンスを行ったところ、既報のmRNAと比較して5'末端より144番目から305番目まで欠損していることが判明した。これらのうつ病患者のゲノムDNAを検索した結果、162bpの欠損は認められなかったことから285bpのmRNAの発現は転写段階での新たなスプライシングが原因と考えられた(Biochemical and Biophysical Research Communications 1996)。本年度は症例数を増やすことと症状の評価を行い、臨床像と転写異常の関係について調べた。 また脳内においてHeat Shock Proteinがどのようなストレスにて発現するかを調べるため動物実験行い、ムスカリニック受容体が関係している可能性を得た(Brain Research 1997)。今後の課題としては精神分裂病、神経症、人格障害など他の精神疾患においての検討をすすめる必要があると思われる。
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