研究概要 |
覚せい剤の加熱吸引法による乱用では静脈内注射法と比べ血中濃度の上昇速度が緩やかであるが,一方,より高い血中濃度が維持される可能性が推察される。この点を検討するための第一段階として,血中濃度を急速に上昇させる条件と徐々に上昇させる条件におけるコカインおよびメタンフェタミンの自己投与(摂取)回数を観察した。ラットの頸静脈にカテーテルを留置し,薬物自己投与実験用ケージに係留した。始めに,薬液を急速に注入できるWeeks型ポンプ(0.25ml/kgの薬液を0.3秒以内に注入)を用いてメタンフェタミン0.063mg/kg/infusionを摂取させた結果,高頻度の摂取が持続するまでに時間を要した。これは,メタンフェタミンの効果持続時間が長いことによると考えられた。そこで,このあと,コカイン0.5mg/kg/infusionの自己投与を観察した。薬液注入にはWeeks型ポンプおよびそれより注入速度の遅いポンプの2種類を用い,また,いずれの場合も1日の摂取回数を50回に制限した。その結果,Weeks型ポンプ(1秒当たりの注入速度は約1.67mg/kg)では3匹全例で生理食塩液より高頻度の摂取がみられ,うち1匹は過剰摂取により死亡した。一方,注入速度の遅いポンプ(1秒当たりの注入速度が0.013mg/kgでWeeks型の約130分の1)では6匹中4匹でのみ生理食塩液より高頻度の摂取がみられ,これらの動物では死亡例はなかった。以上のことから,コカインの同一用量では血中濃度を急速に上昇させる条件下において強化効果がより明らかに発現することが示唆された。今後はメタンフェタミンについて同様の確認を行い,次いで,血中濃度の上昇速度が緩やかな条件でも最高到達血中濃度をより高くすることで血中濃度を急速に上昇させる条件下と同様の強さの強化効果が発現する可能性について観察する予定である。
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