研究概要 |
わが国では毎年21,000人から22,000人の自殺者を認める。そして、65歳以上の自殺者はそのうちの約25%に上る。全人口に占める高齢人口が現在15%であることを考慮すると、この世代の自殺率はきわめて高い。また、わが国の高齢人口は、近い将来、他の国々と比較して急速な増加を示すと予測されており、高齢者の自殺予防は精神保健の重要な課題となっている。 欧米では、地域で自殺が生じた場合に、専門家を派遣し、同意を取ったうえで自殺者をよく知っている人々(家族、知人、医療関係者)に直接面接をすることで、自殺者が生前に呈していた精神医学的問題を解明する調査方法が実施されている。この調査方法は心理学的剖検と呼ばれ、その結果、高齢者の自殺の実態が明らかになりつつある。 今回の研究も心理学的剖検法を用いて計画した。初年度は主として医療機関に受診していた患者の自殺の後に、心理学的剖検に基づく調査をtrialとして実施した。その結果、老年期に初発した大うつ病で、身体症状が前景に立ち、精神科医療機関への受診が遅れている例で自殺の危険が高いという特徴が明らかになった。また、大家族の中で孤立している高齢者のメンタルヘルスも自殺の危険に直結する問題として焦点が当てられた。 なお、文化的な背景が異なるため、欧米諸国の報告に比べると、日本の家族が自殺について率直に語ろうとする態度はそれほど強くない点も明らかになり、この点について十分な配慮をしながら研究の継続を計画しなければならないと考えられた。また、この種の研究が進んでいる欧米諸国との連絡も密にしながら調査を進めており、米国の精神保健研究所(NIMH)や国際老年精神医学会(IPA)とも協力している。
|