研究概要 |
糖尿病性合併症である網膜症,神経障害,更に動脈硬化症の予防と治療は糖尿病臨床上重要な課題である。しかし糖尿病性細小血管症,動脈硬化症の発症機序の詳細については不明な点が多く,その解明は急務である。血管は血管内皮細胞,基底膜,平滑筋細胞,支持細胞などよりなるが血管障害は内皮,平滑筋細胞の機能が糖尿病の高血糖により変化を被ること,また血管新生が糖尿病合併症の進展に関すると考えられ,その研究の重要性が国際的に認識されている。そこで本研究ではin vivo系とともに組織培養を用いて,新しい血管新生因子である血管内皮細胞増殖因子,あるいは透過性因子[vascular endothelial growth factor/vascular permeability factor(VEGF/VPF)]の影響などについて分子生物学的手法にて検討した。 《臨床的検討》 (1)NIDDM患者において,増殖性網膜症合併患者群の前房水中VEGF/VPF濃度は,非増殖性網膜症合併患者群または網膜症非合併患者群に対し,高値を示す傾向がみられ,特に血管新生緑内障合併患者群で著しい高値を示し,VEGF/VPFが糖尿病増殖性網膜症のみならず,同血管新生緑内障の発症・進展にも重要な役割を演じている可能性が強く示唆された。 《基礎的検討》 (1)3種類の培養網膜細胞(血管内細胞,周皮細胞,色素上皮細胞)のVEGF/VPF基礎産生量を検討したところ,色素上皮細胞は血管内皮細胞,周皮細胞と比較して著高値を示した。 (2)網膜色素上皮細胞を10日間高グルコースで培養したところ,濃度依存性・浸透圧非依存性のVEGF/VPF産生上昇を認めた。 (3)培養網膜色素上皮細胞のグルコース濃度または浸透圧を急激に低下させたところ,高グルコースから生理的グルコース濃度へ低下させた群のVEGF/VPF産生量は,生理的グルコース濃度で培養し続けた対照群との間に,有意差を認めなっかた。これに対し,生理的グルコース濃度から低グルコース濃度へと低下させた群では,生理的グルコース濃度で培養し続けた対照群と比して有意なVEGF/VPF産生上昇を認め,この上昇は浸透圧非依存性であった。 (4)妊婦血中濃度相当のプロゲステロンを,培養網膜色素上皮細胞の培養液を添加したところ,VEGF/VPF分泌量は,対照群と比して有意な上昇を認めた。しかしエストラジオールを添加した際には,薬理濃度でのみ対照群と比して有意な上昇を認め,妊婦血清相当濃度では有意な上昇は認めなかった。プロゲステロンとエストラジオールの相乗効果は少なくとも両者の生理的濃度範囲では認められなかった。
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