動脈硬化症は血管壁における脂質とくにコレステロールの沈着を特徴とし、血液中より血管内皮下に遊走して来たマクロファージが編成LDLを鈍食し、泡沫細胞となる過程が重要と考えられている。我々はラット腹腔マクロファージに細胞内脂質転送蛋白の一種で細胞内コレステロール代謝に重要な役割を果たしているSterol Carrier Protein2(以下SCP2)が存在し、マクロファージが変性LDLを取り込み泡沫化する過程で、細胞内コレステロールの上昇がSCP2の遺伝子発現を促進することをはじめて明らかにした。一方、動脈硬化巣を形成するもう一つの因子は血管中膜から遊走してきた血管平滑筋細胞が収縮型から合成型に形質転換を起こし増殖することである。ところでコレステロールは細胞膜の構成脂質として不可欠な因子であることがしられているが、コレステロールがSCP2の誘導を介して泡沫細胞形成において一定の役割を果たしているのに対して、コレステロールが平滑筋細胞の増殖にどのように関与しているかは不明であった。最近高コレステロール血症の治療薬剤としてコレステロール生合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素阻害剤が開発され臨床応用されるようになった。そこで動脈硬化巣の形成におけるコレステロール生合成経路の役割について、特に細胞増殖の観点から解析をおこない極めて興味ある知見を得た。 1.細胞増殖におけるコレステロール生合成経路の役割の解明(2)細胞周期制御因子とlコレステロール生合成経路 細胞増殖を司る因子として最近注目されてきたのが細胞周期制御因子であり、細胞周期を進めるいわゆる細胞周期エンジンとして作用するcyclin/cyclin-depenndent kinase(Cdk)複合体と、そのブレーキとして作用するCdk阻害蛋白がある。ラット甲状腺FRTL-5細胞ではGGPPはCdk阻害蛋白の一種であるp27の分解を介してCdk2を活性化し細胞周期をG1期からS期に進めることが明らかになった。また、GGPPによるp27分解促進の分子機構としてはp27分解きこうとして知られるユブキチン・プロテアゾーム系の活性化ではなくユブキチン化以前のステップであることも明らかになった。 2.細胞増殖におけるコレステロール生合成経路の役割の解明(3)コレステロール生合成経路代謝産物による細胞増殖の分子機構 GGPPはsmallG蛋白の一種であるRhoの脂質修飾と活性化を介して細胞周期をG1期からS期に移行する際、RhoAはG1中期いおいていったん細胞膜から消失し、G1後記にGGPPにより脂質修飾された後細胞膜に移動し活性化される事が明らかになった。
|