All-trans-retinoic acid(ATRA)は最近前骨髄球性白血病の分化誘導療法に用いられており、高率の寛解率が得られている。しかし、その副作用として高トリグリセライド血症が高頻度に認められている。この高トリグリセライド血症の発症機序は未だ不明だが、我々はlipogenesisの充進が重要な役割を果たしていると考え、肝臓、白色・褐色脂肪組織での、malic enzyme(ME)、fatty acid synthase(FAS)の活性を測定し、血清総コレステロール、トリグリセライド値との関連を検討した。 ATRA(0.01〜1mg/100gBW)をラットに投与したところ、腹腔内・経口投与にかかわらず、血清トリグリセライド値の濃度依存性の上昇が認められ、ヒトで認められた結果と同様の結果が得られた。さらに、ATRA投与後白色脂肪組織においてFAS活性の濃度依存性の増加が認められ、肝臓、褐色脂肪組織においても同様にFAS活性の濃度依存性の増加の傾向が認められた。今までにラットの肝臓でトリグリセライドの合成が亢進することは証明されていたが、lipogenesisの亢進が酵素レベルで起こっていることが今回新たに証明された。 また、脂肪細胞の分化やインスリン抵抗性と深い関わりをもつPPARγのligandであるTroglitazoneも単独投与では、血清トリグリセライド、総コレステロール、肝臓、白色・褐色脂肪組織におけるFAS.ME活性いずれもほとんど変化を及ぼさなかったが、ATRAと同時に投与した場合、ATRA投与による高トリグリセライド血症を濃度依存性に抑制し、さらに肝臓におけるFAS活性を抑制する傾向が認められた。 本研究は、ATRA投与中の患者の高トリグリセライド血症の予防法の確立、さらにはRetinoic acidによる脂肪代謝調節の機序の解明に大きく寄与すると考えられる。
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