糖尿病性腎症の成因として、腎糸球体メサンギウム細胞機能障害が重要性である。糖尿病状態において、メサンギウム細胞は高濃度のブトウ糖に曝されるのみならず、終末糖化産物(AGE)にも曝されている。そこで本研究は、AGEにより生ずるメサンギウム細胞機能変異を明らかにするために、メサンギウム細胞でAGEにより発現が誘導される遺伝子を同定することを目的とした。 新しい技術であるmRNA differential display法を用いて、AGEによりメサンギウム細胞で発現が変化する遺伝子のスクリーニングを行った。メサンギウム細胞をAGE-BSAあるいはBSA単独(control)と孵置した後、RNAを単離し、まずT12MN primerを用いて逆転写した。得られたcDNAをT12MN primerおよび種々のrandam primerを用いてPCRで増幅した。PCR産物を電気泳動し、autoradiographyを行った。AGEとcontrolで差のあるbandをゲルより切り出し、プローブとして用いてNorthern blottingを行った。mRNA differential displayによりAGEとcontrolで差のあるbandを78個認め、その内Northern blotで6個の遺伝子の発現の変化を確認した。その全ての塩基配列を決定したが、6個の内3個は既知の遺伝子との相同性を有さなかった。AGEで発現が増強する2個の遺伝子はmitochondrial elongationfactor Tuおよびmesenchyme fork head-1遺伝子と高い相同性を有しており、AGEで発現が低下する遺伝子はactin depolymerizing factor遺伝子と高い相同性を有していた。これらの成績は、mRNA differential display法が糖尿病状態で発現が変化する未知の遺伝子の検索に有用であることを示していると共に、糖尿病におけるメサンギウム細胞機能変異にAGEによる遺伝子発現の変化が関与している可能性を示唆していると考えられる。
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