甲状腺に関連する自己免疫疾患としては、バセドウ病、橋本病及び原発性甲状腺機能低下症が知られており、殊に、バセドウ病や機能低下症の一部では抗TSHレセプター抗体が発症や病態形成に直接的に関与することから、同抗体の構造や機能に関する研究は非常に重要である。 最近我々は、バセドウ病及び原発性甲状腺機能低下症患者から多数のモノクローナル抗TSHレセプター抗体産生リンパ球をクローニングし、同リンパ球から免疫グロプリン遺伝子を単離・解析しており、同抵抗の一次構造を明かにしてきた。そこで今回、単離された抗体遺伝子を用いて、TSH受容体抗体の自己免疫性甲状腺疾患発症機序を明かにするために、平成8年度我々は、単離された抗TSH受容体抗体遺伝子を用いて2クローンのリコンビナント抗TSH受容体抗体を遺伝子工学的に大量作製することに成功した。そこで、本年度は以下に述べるような応用研究を行なった。 1)抗TSH受容体抗体遺伝子を用いたリコンビナント抗体のcharacterization:これらリコンビナントモノクローナル同抗体の抗体結合エピトープの同定および抗原に対する結合親和性を検討し、2つのリコンビナント・モノクローナル同抗体は、互いにわずかな相違を示しつつも、共にTSHと異なる受容体N端部位を認識してその生物学的活性を示すものと考えられた。今後、同抗体をマウスにin vivo投与して病原性を確認する予定である。 2))抗TSH受容体抗体遺伝子を用いたトランスジェニックマウスの作製:まず、単離した抗体遺伝子を用いてトランスジェニックマウス用DNAコンストラクトを作製することを目的とした。今後、このDNAコンストラクトをマウス受精卵に導入し、自己免疫性甲状腺疾患のモデル動物の確立をめざす予定である。
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