アンジオテンシンII(AII)受容体サブタイプのうち、血管・副腎型受容体で血管収縮、心肥大や細胞増殖などこれまでのAIIの殆どの作用に関与するとされるタイプ1(AT_1)受容体と異なり、我々のクローニングした胎児型受容体であるタイプ2(AT_2)受容体は、生理作用や意義について依然不明な点が多い。今回、AT_2受容体の機能、発現調節および意義について、以下の知見を得た。 1.ヒト組織におけるAT_2受容体遺伝子発現の解析と生理的、臨床的意義の検討 ヒトAT_2受容体遺伝子発現の局在との調節を結合実験、Northern blot法、in situ hybridization法などにより解析し、特に子宮筋に多く発現すること(子宮AII受容体の90%)、子宮筋腫でも同様であること、AT_1受容体と異なり妊娠により著しくdown-regulationすることを認め、性ホルモンによる転写レベルでの調節が示唆された(J Clin Endocrinol Metab)。AT_2受容体は細胞増殖や収縮などにおいてAT_1受容体と拮抗した作用を示すことから、受容体減少による妊娠子宮筋肥大促進への役割が示唆された。 2.ラット組織におけるAT_2受容体遺伝子発現とその調節機序の検討 ラット腎臓におけるAT_2受容体発現を検討し、新生児期における高血圧自然発症ラット(SHRSP)腎臓での発現が正常対照(WKY)に比し約60%と有意に減少していることを認め、高血圧発症への関与を示唆した。さらに、WKY由来培養腎メサンギウム細胞ではconfluent後の増殖抑制に伴ってAT_2受容体発現が著しく亢進するのに対し、増殖性の亢進したSHRSP由来細胞ではその発現が全く見られず、またこの調節にインターフェロン調節因子(IRF-1)誘導の有無が関与することを見出した(Hypertension)。 3.AT_2受容体を介する細胞増殖抑制およびアポトーシス誘導のついての検討 培養腎メサンギウム細胞を用いて、AIIによる細胞増殖促進効果がAT_2受容体阻害で有意に亢進すること、一方AT_2受容体刺激で細胞増殖が抑制されることを見出し、メサンギウムにおいてもAT_1と拮抗したAT_2受容体の作用を示した。またその機序のひとつとして、アポトーシスの亢進を認めた。
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