私どもは甲状腺刺激ホルモン(TSH)遺伝子の発現調節におけるインターフェロン-γ(IFN-γ)の作用機序の一端を明らかにした。IFN-γなどのサイトカインが甲状腺細胞に異所性に主要組織適合抗原(MHC)class IIを発現させることが自己免疫性甲状腺疾患の発症・持続に際し重要であることが示唆されている反面、このような臓器特異的なMHC class II発現を抑制することをめざした治療薬の開発はほとんどなされていない。私どもはnicotinamideがヒト甲状腺細胞におけるMHC class IIの発現を抑制するという過去の報告に興味をもち、本剤の新たな治療(補助)薬としての可能性を検討するため、その作用機序の解明を試みた。ラット甲状腺細胞FRTL-5において、nicotin amideは用量依存的にTSH受容体遺伝子のプロモーター活性を増強し、40mMで最小プロモーター領域の活性を3ないし5倍増強した。また、IFN-γによるプロモーター活性の抑制効果をnicotinamideは解除した。プロモーター領域の5′端からの欠失配列に対する効果の解析から、作用部位は組織特異的発現に重要な役割を担うTTF-1やCRE結合蛋白以外の領域で、プロモーター活性に抑制的に作用するTSEP-1(YB-1)の可能性が示唆された。同様にYB-1が抑制的に作用するMHC class II遺伝子でも、YB-1結合部位を含むプロモーターの活性はnicotinamideにより増強された。nicotinamideによりTSEP-1(YB-1)のmRNA発現を減少することから、TSH受容体遺伝子に対するnicotinamideの活性増強効果は抑制因子TSEP-1の発現を低下させることによると考えられる。今後、ヒトの甲状腺細胞における効果の検討が必要と考えている。
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