チアミン反応性貧血症候群(TRMA)は、巨赤芽球性貧血、糖尿病、難聴を三主徴とする先天性代謝異常症である。本症の原因異常遺伝子は未だ同定されていないが、チアミン生合成能を持たないヒトではチアミンピロホスホキナーゼ(TPK)とチアミン輸送タンパク質のいずれかが異常酵素である可能性が非常に高い。しかし、いずれのタンパク質もそれをコードする遺伝子はヒトでは単離されていない。我々は先に出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeのTPK遺伝子THI80とTPK欠損変異株thi80株を単離していたので、thi80株を宿主とする酵母の発現クローニング系を用いてヒトTPKcDNAの単離を試みた。しかし、この機能相補によるスクリーニングではヒトTPKのcDNAは分離することができなかった。また、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeのTPK遺伝子tnr3とTHI80のアミノ酸配列には部分的にホモロジーが認められたが、その部位に相当する数種の縮重を持つプライマーを用いたPCR法によってもヒトのTPKcDNAは単離されなかった。現在、イスラエルのCohenらと共同でTRMAの家系について連鎖解析を行い、マッピングによるTRMAの原因遺伝子の同定を目指している。一方、我々はTRMAのもう一つの原因候補タンパク質であるチアミン輸送タンパク質のヒトcDNAを得るための材料を得る目的で、S.cerevisiaeのチアミン膜輸送変異株及びチアミン膜輸送タンパク質遺伝子THI10を単離した。
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