我々はカケクチン(=TNF)脂肪細胞に対して抗インスリン作用を示し脂肪蓄積を著しく減少させ羸痩をもたらすことを報告してきた。しかし、最近、obマウスを含む肥満動物ではTNFが脂肪細胞に発現し、これがインスリン抵抗性(高インスリン血症)をもたらし、肥満の原因になっていると提唱されている。このようにTNFが「肥満」と「羸痩」のどちらをもたらすかは、(1)TNFの作用がその量によって正反対の効果をもたらす、(2)TNFの作用が脂肪細胞に限局した時にのみ脂肪の蓄積が生じる、という可能性が考えられる。そこで、本年は、(1)高濃度インスリン存在下(10μg/ml)における微量TNFの脂肪蓄積に対する効果、(2)食欲抑制中枢破壊による肥満マウスおよび自らTNFを産生しているob/obマウスにおける微量のTNFの効果を検討した。結果は、(1)高濃度インスリン存在下においても、TNFは脂肪細胞のリポ蛋白リパーゼおよび脂肪酸合成酵素系を抑制し、脂肪蓄積を減少させた。この効果は用量反応性で低用量でもTNFが脂肪細胞の脂肪蓄積を促進する効果は認められなかった。(2)Monosodium glutamate肥満マウスあるいはob/ob肥満マウスにミニポンプを用いて全身的にTNFを3日間持続投与しすると、非肥満マウスと全く同様に体重の低下を示した。この体重の減少は主として脂肪重量の減少によるものであり、これは、両モデルによる肥満マウスでも同様であった。IL-1でも同様で、体重および脂肪組織重量の減少が認められた。以上の結果とTNFのインスリン分泌促進作用(自己知見)を考え合せると、脂肪細胞のTNFが肥満の誘発の直接的な原因であるとしても、その機序はインスリン抵抗性を介する高インスリン血症の誘発ということ以外のものを検討する必要があると考えられた。
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