IGFおよびIGFBPの病態生理的意義について検討を加え、本年度は以下に示す知見を得た。 1]低血糖を呈する膵外腫瘍(NICTH)における血中IGFBPsに関する検討:IGF-II産生膵NICTHでは血中IGF-II値は必ずしも高値でなく、IGF-IIのみで本症の低血糖を説明することはできず、IGF-IIの作用を調節するIGFBPの変化が低血糖発症機構に関与することが考えられる。そこで、IGF-II産生NICTH37例において、血中IGFBP-2、-6をRIAでIGFBP-3をIRMAで測定した。血中IGFBP-2は1982±208ng/mlであり、健常成人に比し有意に高値であった(383±20ng/ml)。血中IGFBP-3は1.51±0.11μg/mlであり、健常人に比し有意に低値であった(3.13±0.05μg/ml.一方、血中IGFBP-6値は20.9〜921ng/mlと広範囲に分布し、高値を呈するものもあったが、健常人と差を認めなかった(218±43vs110±7.4ng/ml).腫瘍を摘出後、低血糖が消失した6例では、術後、血中IGFBP-2、-6は低下し、血中IGFBP-3は増加した。以上の成績はこれらIGFBPsの変化がIGF-IIのbioavailabilityを変化させ、低血糖に関与しうることが示唆された。2]血中acid labile subunit (ALS)の測定の有用性に関する検討:IGFBP-3は血中ではIGF-IGFBP-3複合体を形成し、この複合体の多くはALSと結合し、IGF-IGFBP-3-ALSの3量体(150kDa)を形成している。このALSの血中動態を最近開発されたRIAを用いて測定し、その測定の有用性について検討した。成人GH分泌不全症(GHD)の血中ALSは4.2±2.6mg/Lであり、健常人に比べて有意に低値であった(16.2±2.4mg/L)であり、GH治療により有意に増加し(11.5±3.8mg/L)、投与中止後低下した。血中ALSは血中IGF-1、IGFBP-3と各々r=0.79、0.89と有意な正の相関を認めた。以上の成績は、血中ALSはGH分泌能を反映しており、GHDの診断、治療効果の判定に有用であると考えられた。
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