心筋、腎、大動脈組織中における内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)とエンドセリン(ET-1)の病態生理学的意義を解明するため、易卒中高血圧自然発症ラット(SHR-SP/Izm)に降圧剤であるCa拮抗薬とAng変換酵素阻害薬を投与し、それらの遺伝子発現動態を検討した。即ち、高血圧発症前の4周齢から8週間あるいは高血圧発症後の8周齢から4週間に亘り、ニルバジピン(1.0mg/kg、3.2mg/kg、s.c.)、アラセプリル(30mg/kg、p.o.)を連日投与し、12周齢で組織を摘出、組織中のeNOSとET-1のmRNA発現をRNAase protection assayとRT-PCR/Southern blottingにて解析した。その結果、いずれの降圧剤によっても有意な降圧と左室重量の減少を認めた。組織中eNOSmRNA発現は心筋、腎、大動脈いずれもSHR-SP/IzmとWKY/Izmで差を認めなかったが、ニルバジピン投与にて大動脈eNOSmRNA発現の増加を認め、特に8週間投与群で高値であった。アラセプリル投与では、心、腎、大動脈のeNOSmRNA発現は増加傾向を示した。SHR-SP/Izmの心筋、腎におけるET-1mRNA発現は亢進していたが、ニルバジピンとアラセプリル投与にて減少し、その効果は4週間投与群に比べ8週間投与群でより著明であった。大動脈のET-1mRNA発現には著変を認めなかった。以上から、高血圧ラットにおける心筋、腎、大動脈のeNOS発現は著明な高血圧にも拘わらず亢進を示さず、対照的に発現の亢進しているET-1とのアンバランスが高血圧と臓器障害の進展に関与する事が示唆された。更に、降圧剤であるCa拮抗薬とAng変換酵素阻害薬は臓器特異的にeNOSとET-1の発現動態に影響し臓器保護作用を発現する事が示唆された。
|