研究概要 |
1型ヨードサイロニン脱ヨード酵素(Type I iodothyronine deiodinase:D1)はサイロキシン(T4)を,より活性の強いトリヨードサイロニン(T3)に転換する.ヒトにおける本酵素遺伝子発現の生理的ならびに病態生理的意義を解明することを目的として,末梢血の単核球のD1mRNAを競合的なreverse transcriptase-polymerase chain reaction(RT-PCR)法を用いて定量的に測定した. 対象は,正常健常人およびバセドウ病や橋本病による甲状腺機能亢進症患者と原発生甲状腺機能低下症患者であった.末梢血をヘパリン加採血し,濃度密度勾配法でリンパ球を多く含む単核球(PBMC)を分離し,これらからグアニジン-フェノール法により全RNAを抽出後,RT-PCRによりD1mRNAを特異的に増幅した.D1cDNAを約100bp短くした変異DNA(deletion mutant cDNA:dcDNA)を作製し,RNAポリメラーゼにより合成したdcRNAをcompetitorとして使用し,dcRNAとの比でD1mRNAを定量した. 本法により,約10mlの血液でPBMC中のD1mRNAの定量が可能であった.D1mRNAはバセドウ病による甲状腺機能亢進症患者で正常者より有意に高値であった.D1mRNAは血中T3濃度と有意に正相関した.抗甲状腺薬で治療後正常甲状腺機能状態となると,D1mRNAは正常域にまで低下した.更に,PBMCをRPMIを含む培地で培養後,T3を添加するとD1mRNA量は有意に上昇した.これらより,本法はヒトにおけるD1発現調節機構解明に有用な方法であり、また,ヒトD1はT3によりup-regulationをうけていると考えられた.
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