オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症患者の中には思春期以降はじめて発症する症例があるが、本年度も引き続き、我々はこれら症例の遺伝子解析をおこなった。本年度あらたにOTC遺伝子の40番目のアミノ酸のアルギニンがヒスチジンに変化するR40H変異を有する27歳の症例を経験した。この症例の肝臓からRNAを抽出し、reverse transcriptaseならびにPCR法を用いて患者OTC cDNAを作成し、このcDNAをプラスミドに挿入後、シークエンスしたところ、R40H変異が認められた。肝より抽出したDNAを鋳型として、OTC遺伝子第2エクソンをPCR法にて増幅し、R40H変異を検出する、制限酵素NlaIIIを用いて、消化したところ肝臓の6つの検体すべてについて完全消化されR40H変異を有することがDNAレベルでも確認された。しかしながら培養した患者の線維芽細胞、あるいは皮膚組織からDNAを抽出し、OTC遺伝子第2エクソンを増幅後、NlaIIIで消化したが、極わずか消化されたのみで、ほとんど正常の遺伝子であった。これらのことにより、この症例は、発生段階の体細胞レベルで、正常遺伝子からR40H変異を引き起こした可能性が考えられる。R40Hは世界中で報告されている遅発型に関係した変異で、報告の数としてはOTC欠損症の中で、極めて多い。R40H変異はCpG islandに位置していることもあり、比較的変異が起きやすいかのうせいがある。またこの変異を有する患者は子どもをもうけた後に発症する事も多いことから、変異遺伝子が比較的保存されやすく、このことが、R40H変異が世界中で多く認められる理由のひとつとなっている可能性もある。
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