研究概要 |
AML1遺伝子は,急性骨髄性白血病でしばしば認められるt(8;21)染色体転座の切断点に位置する21番染色体上の遺伝子としてクローニングされた.その後,慢性骨髄性白血病の急性転化期等に出現するt(3;21)染色体転座においても,AML1遺伝子が再構成されていることが判明した.これらの染色体転座により,それぞれAML1/MTG8,AML1/Evi-1融合蛋白質が産生される.また,急性骨髄性白血病で認められるinv(16)では,AML1とheterodimerを形成するPEBP2β(CBFB)の遺伝子が再構成され,PEBP2β/SMMHC融合蛋白質が産生される.これらの染色体異常では,AML1の構造異常・機能異常が白血病の原因となっていると考えられる.我々は,AML1の構造異常・機能異常による白血病発症のメカニズムを解明すべくAML1の血液細胞の分化増殖における機能,ならびに転写制御における活性を検討した.その結果,1.AML1aは,32Dc13細胞の顆粒球への分化を抑制し,さらにAML1bは,このAML1aの作用をキャンセルする.2.AML1bはPEBP2siteに対し転写活性を有する.AML1aは、それ白身は転写活性化能をもたないが,AML1bによる転写活性をdominantに抑制する.3.AML1aは,AML1bに比べ高いaffinityでPEBP2 siteに結合する.ことが明らかとなった.3.により,AML1aのAML1bに対するdominant negativeな作用は,PEBP2 siteへの結合の競合によるものであると考えている.我々は、EGFでCOS細胞を刺激する実験系を用いて、AML1蛋白質がERKによってリン酸化を受けることを見いだした。主要なリン酸化部位はPST領域内のS249であり、付加的なリン酸化部位S266であることが判明した。AML1蛋白のERKによるリン酸化は、DNA結合能には影響しないが、転写活性を明らかに上昇させること、およびNIH3T3細胞における足場非依存性増殖に必須であることが示された。さらに、AML1蛋白質はERKに構成的に会合し、この物理的会合はERKのキナーゼ活性およびAML1のリン酸化には影響されないことが判明した。以上のことから、AML1の生物活性の少なくとも一部はERKによって制御されていると考えられた。また、AML1蛋白質のDNA結合能は還元状態で増加し、酸化状態で低下し、DNA結合能、転写活性化能、NIH3T3細胞における足場非依存性増殖能のいずれの活性にも関与することが明らかとなった。この実験事実より、AML1蛋白質はその機能発現においてレドックス制御を受けるものと考えられた.
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