研究概要 |
がん抑制遺伝子WT1が造血発生にどのような役割を果たすかを明らかにする目的で、まず、その機能異常を来す構造変異の存在の有無を、ヒト白血病検体において検討した。白血病患者より得られた検体DNAをWT1のエクソン1〜10各々について、SSCP法によって解析し、異常パターンの見られたものについては塩基配列を確認した。 小児白血病80例の解析によって、急性骨髄性白血病6例に異常が見られた。異常が見られたのはエクソン7, 8, 9であり、異常パターンとして点突然変異、欠失が見られた。これらの異常の結果として、エクソン7〜10に存在するZnフィンガードメインが機能損失を起こすことが予想された。WT1はZnフィンガーを介してターゲット遺伝子の転写調節を行うことから、この構造変異によりWT1の転写調節能に異常が生ずることは明らかである。また、正常アレールの残存に関しては、残っているものと残っていないものが見られたが、ウィルムス腫瘍においては変異型WT1にdominant-negative効果があることが判っているため、白血病においても正常アレールが残存しているものについては同様の現象が起こっていることが予想される。 WT1の変異を来した個々の症例の他の遺伝子異常を見てみると、1例において染色体転座(8 : 21)、1例において(16 : 21)の転座が見られた。また、前者においては同一患者の初診時、再発時の検体が得られたが、WT1の変異は再発時のみに見られた。これらの知見より、染色体転座は白血病発症の早期に関わる異常であるのに対して、WT1の変異は進行期に起きることが推定された。 同様の結果は、骨髄異形成症候群での検討でも明らかになった。すなわち、28例の成人MDSにおいてWT1の変異を有するものは白血化したもの1例のみであった。 以上の結果により、WT1の変異は、造血器腫瘍の進行に関与するものと考えられ、今後細胞株を使った実験で、この点を明らかにする必要があるとともに、この遺伝子診断が治療法の選択、予後の決定に役立つものと考えられる。
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