WT1遺伝子はウィルムス腫瘍の癌抑制遺伝子として単離されたが、CD34陽性血液幹細胞及び白血病で発現していることから、白血病病態に関与している可能性が示唆されてきた。そこで本研究では、機能的にどのようにWT1は白血病に関与しているかを明らかにするために、ヒト患者検体における変異解析を行った。 小児急性骨髄性白血病20例において、WT1のほぼ全領域にわたるエクソンにおけるSSCP解析を行った。その結果、3例においてバンドシフトを認めたためシークエンスによって構造変異を確認した。ダウン症候群の患者に発症した急性巨核芽球性白血病の症例ではコドン397における点突然変異によりHis→Glnの変異が検出された。急性骨髄性白血病の2例においてはそれぞれコドン405、コドン394の点突然変異によってHis→Leu、Arg→Glnのアミノ酸置換が確認された。このうち1例はt(8;21)の染色体転座を伴っていた。 このように、急性骨髄性白血病の15%にWT1の変異が確認された。いずれのアミノ酸置換も転写調節領域であるZnフィンガーで起きたものであり、これらの変異によってDNA結合能に大きな異常が出ることは他の実験によって確認されている。変異陽性例はすべてが治療抵抗性となり、死亡した予後不良例であった。また、1例は染色体転座を合併し、再発時のみWT1の変異が検出されたことにより、WT1のZnフィンガー領域における構造異常が白血病の進行に強く関与していることが明らかとなった。
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