研究概要 |
平成8年度は,レチノイドによる白血病細胞の分化,アポトーシス誘導機構を明らかにする目的で,レチノイド受容体特異的リガンドを合成し骨髄性白血病細胞に与える影響について検討した.その結果,種々のレチノイド受容体の中でも,骨髄性白血病細胞の分化誘導にはretinoic acid receptor(RAR)-αの転写レベルでの活性化が必須であり,またアポトーシスの誘導におけるシグナル伝達にはRAR-αに加えてretinoid X receptor(RXR)の活性化が必要と考えられた.レチノイドに耐性化したHL-60細胞(HL-60R)ではRAR-α遺伝子のリガンド結合領域,コドン411にC→Tへの点突然変異を認め,ストップコドンを形成するために,この細胞ではリガンドの受容体への結合が低下していることが明らかになった.さらに,臨床的にレチノイド耐性となった急性前骨髄球性白血病(APL)患者より細胞株(UF-1)を樹立し,レチノイド耐性機構の解析を施行した.UF-1細胞ではチトクロームP-450やP-糖蛋白およびコードするMDR1遺伝子の発現が亢進しており,細胞内でのレチノイドの代謝異常も耐性化機構の一因になりうることが明らかになった.事実,レチノイド耐性白血病細胞をレチノイドとともにチトクロームP-450阻害剤あるいはP-糖蛋白アンタゴニストとともに共培養すると耐性が解除され,実際の臨床への応用の可能性が示唆された.さらに,現在UF-1細胞におけるPML/RAR-α遺伝子および新規のレチノイド耐性関連遺伝子のクローニングを施行している.
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