研究概要 |
平成9年度はレチノイドによる白血病細胞の分化,アポトーシス誘導機構を解析する目的で,われわれが樹立したレチノイン酸抵抗性急性前骨髄球性白血病(APL)細胞株(UF-1)を用いて種々の解析を行った.UF-1細胞は,APLに特異的なキメラ遺伝子PML/RARαのレチノイド結合領域に,611番目のArgのコドンCGGがTGGに変異してTrpに変化する新たな点突然変異のためリガンド結合能が著しく低下することが,レチノイド耐性の1つの原因であることが明らかになった.また,differential display法にてUF-1細胞に特異的に発現する4種類の遺伝子の一部塩基配列を同定した.これらの遺伝子は既存の遺伝子との相同性を有さず,新たな細胞分化関連遺伝子の可能性を含めてその機能解析を進めている.さらに興味深いことに,1,25-dihydroxyvitamin D3はcdk inhibitor(p21,p27)を活性化することで,レチノイン酸には反応しないUF-1細胞を細胞周期G1期に停止させ顆粒球系細胞に分化させることが明らかになった.現在,p21,p27遺伝子を過剰発現させ強制的にG1 arrestを起こした細胞におけるレチノイドによる分化,アポトーシス誘導機構を分子レベルで解析している.一方,臨床応用可能な新たな分化誘導物質を開発するために,UF-1細胞をヒトGM-CSFトランスジェニックSCIDマウスに移植した,ヒトAPLマウスモデルを作成に成功した.In vitroの実験結果を反映し,ヒ素化合物をこのマウスに投与するとアポトーシスにより腫瘍が縮小し,ヒ素化合物の臨床応用の可能性が示唆された.現在,ヒ素による白血病細胞のアポトーシス誘導機構の分子メカ二ズムについてわれわれの作成したin vitro及びin vivoモデルを用いてさらに検討を続けている.
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