平成8年度は血小板粘着時におけるαIIbβ3の再分布について検討し、粘着の機構のなかでも特に伸展との関わりについて検討した。すなわち、正常またはαIIbβ3が欠損する血小板無力症血小板を固相化コラーゲンに接着、その後の血小板の伸展過程におけるαIIbβ3、GPIb/IX複合体、さらに血小板α顆粒から放出されてくるフィブリノゲンおよびvon Willebrand因子(vWF)の分布を免疫走査電顕的に検討した。 コラーゲンに接着5分後、正常および無力症血小板ともに偽足を突出させ、一部では胞体の伸展がみられた。αIIbβ3は、正常血小板の偽足および伸展胞体部の先端に密に分布した。無力症血小板ではほとんど検出されなかった。一方、コントロールのGPIb/IXはαIIbβ3と異なりほぼ均等に分布していた。フィブリノゲンは正常血小板の表面の中央部に分布した。さらに、フィブリノゲンの存在を示す金粒子は血小板の存在しない基質(ガラス)面上にも検出された(5.1±2.0個/μm^2)。無力症血小板ではαIIbβ3と同様にほとんど検出されなかった。30分後、正常血小板は目玉焼き状に伸展したが、無力症では胞体の伸展が不良であった。αIIbβ3は伸展した正常血小板の辺縁部で、特に密度高く分布した。しかし、無力症血小板ではαIIbβ3はほとんど検出されなかった。GPIb/IXは正常および無力症血小板で偏った局在を示さなかった。フィブリノゲンは正常血小板では表面膜上および基質面上に検出され、基質上のフィブリノゲンは14.5±1.2個/μm^2と有意に増加した。無力症血小板の基質上のフィブリノゲンは、5分後0.5±0.3個/μm^2、30分後2.4±0.4個/μm^2と正常血小板に比べて有意に少なかった。次に、正常血小板におけるαIIbβ3とフィブリノゲンの二重染色法を実施した。その結果、伸展胞体の先端部のαIIbβ3と基質上のフィブリノゲンがco-localizeする所見を見出した。vWFは正常および無力症血小板で伸展血小板の中央部に分布した。 以上の結果より、血小板伸展時にαIIbβ3は特に伸展方向の辺縁部に再分布するようになり、基質上に放出されたフィブリノゲンに結合することによって、血小板伸展が促進されると考えられた。
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