平成8年度は血小板粘着時におけるαIIbβ3の再分布について検討した。平成9年度は血小板粘着時の細胞骨格蛋白およびシグナル伝達に関わるチロシンキナーゼの分布を蛍光顕微鏡法で検討した。 コラーゲンに対する粘着前のヒト血小板は円盤形を示した。この時、凍結超薄切片による免疫電顕法では、アクチンは細胞膜直下および細胞質に豊富に分布し、α顆粒、ミトコンドリアなどの小器官中にはほとんど検出されなかった。talinは、アクチンに比較すると検出感度は低いが、同様に細胞膜直下および細胞質内に散在して分布した。また、vinculinはさらに検出感度が低下し、本蛋白の存在を示す金粒子は細胞質に存在するが、少なすぎて一定の分布の傾向を示さなかった。一方、チロシンキナーゼのpp125^<FAK>(以下FAK)、pp60^<src>(以下Src)およびpp72^<syk>(以下Syk)はアクチンと同様に細胞膜直下および細胞質に豊富に検出された。コラーゲンに粘着させた時、血小板はコラーゲン線維に接着後、形態変化を起こし、本線維をまたぐように胞体を伸展する。この時アクチンは束となって分布した。vinculinは蛍光法では強く染色され、粘着血小板の中心部と辺緑部の間の中間部で棒状にかつ放射状に強く染色され、その一部はアクチンの走行に沿っていた。talinは微漫性に染色されたが、血小板相互の接触部で強い陽性像を示した。一方、FAKとSrcは伸展血小板の中心部付近で斑点状の陽性像が輪状になって染色された。しかし、SykはFAKおよびSrcとは異なり、辺緑部を中心に微慢性に染色された。 培養細胞の接着斑はインテグリンおよび細胞骨格蛋白が集積し、ここにFAKも結合して形成されることが知られている。血小板においては、FAKとSrcは粘着血小板の中心部付近の底部で斑点状に限局して観察され、これは粘着初期の接着斑様のものと推察されたが、vinculinおよびtalinの細胞骨格蛋白は典型的な接着斑の形成を示す分布を示さなかった。血小板粘着時の接着斑の形成の有無については、更なる検討が必要と考えられた。
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