糸球体腎炎の進展に深く関与するTGF-βの発現、活性化の調節機構解析を目的にヒト糸球体腎炎及び、抗胸腺抗体(ATS)を用いた急性可逆性腎炎、慢性進行性腎炎両モデルにおけるTGF-β1、latent TGF-β binding protein(LTBP)、TGF-β type I、II、III receptors(TβRI、TβRII、TβRIII)蛋白、mRNA発現の局在、推移を免疫染色、免疫電顕法、in situ hybridization法にて検討した。ラット正常腎ではTGF-β1は糸球体上皮細胞と遠位尿細管に、TβRI、TβRIIは糸球体内皮細胞、ボウマン嚢上皮、遠位尿細管、集合管管腔側に弱い発現が見られ、TβRIIIはさらに間質にも発現が見られた。TGF-β1、LTBP、TβRII、TβRIII共に急性可逆性腎炎モデルでは一過性の発現増強を糸球体内皮、糸球体上皮、メサンギウム領域、ボウマン嚢に認めた。慢性進行性モデルでは更に、糸球体上皮、ボウマン嚢癒着部、病変糸球体周囲尿細管間質に持続的な強い発現が認められ、LTBPがTGF-βの活性化、病変局所への保持に関与している可能性が示唆された。またTβRIIは急性可逆性モデルにおいては、a-smooth muscle actin(a-SMA)を発現する増殖メサンギウム細胞では発現が弱く、慢性進行性モデルでは糸球体及び間質病変部に強い発現がみられた。トリチウムサイミジン、トリチウムプロリンを用いた、両腎炎単離糸球体における外因性TGF-β1の増殖阻害、細胞外基質産生試験では急性腎炎増殖期ではTGF-β1に対する増殖阻害作用及び基質産生作用の低下がみとめられ、両反応共にTβRIIを介したシグナル伝達が関与している可能性が示唆された。現在、LTBP発現プラスミドの作製を完了しており、すでに入手したTGF-β発現プラスミドと共に培養メサンギウム細胞にリボソーム法で、ラット腎に対しHVJリボソーム法でin vivoの遺伝子導入を行い、直接的にTGF-βの制御機構の解析を進める予定である。
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