研究概要 |
血管透過性亢進因子(VPF/VEGF)は正常腎では糸球体上皮細胞により産生され、血管透過生亢進作用、血管内皮細胞増殖作用、Monocyte/macrophage遊走、活性化作用などを持つ糖蛋白である。我々は、in vitroでヒト培養メサンギウム細胞がVPF/VEGFを産生するpotentialを持ち、その活性化によりVPF/VEGFの産生が亢進することを明らかにした(Kidney Int44:959-966,1993)。しかし、in vivoでもVPF/VEGFを産生するのか、その産生がどのような病態生理学的な意義を持つのかは依然として明らかではない。そこで我々は、メサンギウム増殖性腎炎(PGN)を中心とした腎疾患患者(n=83)および正常腎(n=7)を対象とし、その腎生検検体を用いて、1)間接蛍光抗体法、2)cRNAプローブを用いたin situ hybridization法によりVPF/VEGE産生細胞を同定し、その発現の程度と組織学的所見および臨床所見との関連を検討した。その結果、正常腎やPGN以外の腎疾患では、大半の糸球体は従来報告されているように糸球体上皮細胞にVPF/VEGFを認めた。一方、PGNの一部の症例では、糸球体上皮細胞だけでなくメサンギウム領域にも強いVPF/VEGF蛋白の発現を認め、1)二重染色法による解析で、VPF/VEGF蛋白は、活性化メサンギウム細胞のマーカーであるα-smooth muscle actin(αSMA)蛋白の発現パターンと一部一致し、2)in situ hybridization法でVPF/VEGF mRNAが陽性の細胞の一部がαSMA蛋白を発現していたことより、活性化メサンギウム細胞もVPF/VEGFを産生していると考えられた。中等度以上のメサンギウム増殖を認めるPGNに関して、メサンギウム増殖のタイプをA群:メサンギウム細胞の増加が基質の増加に比して優位であるもの、B群:メサンギウム細胞の増加と基質の増加が同程度であるもの、C群:メサンギウム基質の増加が細胞増加に比して優位であるものの3群に分類し、メサンギウム細胞によるVPF/VEGFの発現との関係を検討したところ、発症早期のPGNの特徴的な病理像であるA群では、他群やコントロールに比してメサンギウム細胞によるVPF/VEGFの発現が有意に亢進していた(p<0.01vs.正常腎、病的コントロール、B群、p<0.05vs.C群)。また、メサンギウム細胞によるVPF/VEGFの発現を認める例では認めない例に比して、発症から腎生検までの期間が有意に短かった(p<0.01)。以上より、メサンギウム細胞によるVPF/VEGFの発現は早期のPGNの特徴であり、その進行や治癒過程に何らかの役割を持つ可能性が考えられた。
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