母胎内の胎児の出生前DNA診断において、母体への影響を極力軽減する為、検査材料として母体末梢血中に混入する胎児赤芽球を用いる方法が考案されたが、このためには胎児赤芽球と母体リンパ球を確実に識別する技術が不可欠である。そのため、本研究では、単一の細胞ごとに遺伝的多型を調べる方法として、単一細胞由来の極微量のDNAを遺伝的多型の大きなHLA抗原型でタイピングすることを試みた。 ヒト末梢血より、シングルセルマニュプレーション法により、単一細胞を得てDNAを粗精製した後、ランダムな塩基配列を持つ15merのプライマーを用いてPCR法によりDNA全体を増幅した(PEP法)。本研究では、通常のPEP法を更に改良し、アニーリング温度を低く抑えることによりDNA全体を満遍なく増幅すること、dNTPの量を増やして増幅量を増加させること、及びそれに伴う反応条件の改良を行った。 PEP法により増幅されたDNAを、更にHLA-DRB1遺伝子に対応したプライマーで再度PCRを行い、通常のPCR-SSO法によるHLA-DRタイピングを行った。HLA-DRB1プライマーによるPCRでは、ほとんどの場合電気泳動で目的の長さに相当するDNAが検出されたが、時として泳動結果がスメア-状となる場合もあった。しかし、どちらの場合でもその後PCR-SSO法によるHLA-DR抗原型のDNAタイピングが可能であり、タイプ既知の試料の結果は正確に判定できた。 今後はHLA-DRB1遺伝子用プライマーを改良して、スメア-の発生を抑える方法の開発を行った後、実際の胎児赤芽球のタイピングを行う予定である。
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