われわれは先にアロマターゼ遺伝子で胎盤への発現を規定しているプロモーターとhCG a-subunit遺伝子のプロモーターに共通したシスエレメントTSE(trophoblast specific element)があり、胎盤由来の細胞にのみ見られるある核タンパクのこの部分への結合がどちらの遺伝子においても胎盤特異的な発現の規定に必須であることをみいだした。しかし二つの胎盤特異的なプロモーターの構造は大きく異なっており、アロマターゼ遺伝子のプロモーターには既知の転写制御因子の関与が今の所、証明されていない。しかしこのシスエレメントは単独ではエンハンサー活性を持たないため他の因子が必要なことはあきらかで、今回この点を検討し、hCG a-subunitのTSE配列に結合する第二の因子(TSEB-II)をみいだした。このたんぱくはアロマターゼ遺伝子のプロモーターで、すでに知られているTSE結合タンパク(TSEB-I)の認識する部位とは異なる位置に結合し、これらのタンパクの結合で胎盤特異的な発現がおこることがわかった。TSEB-IIも胎盤由来の細胞にのみ見られた。one-hybrid systemで2つのTSEBのクローニングを行い、TSEB-IIについては5種のクローンを得た。これらはいずれも未知のcDNAで現在解析中である。最近米国の学会で精製したTSEB-Iが広範囲に存在する転写因子AP2であった、とする報告があった。部分的な追試をおこなったところ、TSEとAP2はエレメントとしては結合に関し競合が認められたが、抗AP2抗体の影響はみとめられず、活性の局在の違いなど説明できない点があり現在検討を続けている。
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