成人呼吸促迫症候群(ARDS)を代表とする肺微小血管透過性亢進による呼吸不全は、外科治療に伴う周術期にも致命的な合併症として認識されている。その発生機序にはサイトカインやアナフィラトキシンにより活性化された多核白血球の関与が研究されてきた。研究代表者は補体の可溶性後期複合体(SC5b-9)が肺微小血管の透過性亢進を来す知見を得て、その機序が微小血管内皮細胞上のインテグリン受容体を介するものであることを発表してきた。外科侵襲が加わったヒト生体において、SC5b-9の形成がどの程度なのか、術後の呼吸不全の発症にどの程度関与しているのかを、肺に直接手術操作のおよぶ肺切除例で検討した。 患者血漿を、ELISAを用いてSC5b-9濃度を定量した。肺葉切除後に肺血管抵抗値の上昇(平均肺動脈圧40mmHg)を来した例では術後1日め、2日めに3.1、3.3μg/mlと高値を示した。通常の術後経過をとった肺葉切除、肺部分切除では0.2〜0.3μg/mlと、健康正常人値と差はなかった。肺全摘では、術後1日め、2日めに3.7、2.4μg/mlと高値であり、また肺部分切除例でも複数箇所に手術操作の及んだものでは1.2μg/mlと軽度上昇を示した。 手術侵襲の程度に応じた後期補体成分の形成が認められた。術後に肺血管透過性の亢進した呼吸不全準備状態といえる病態が形成され、感染などが加わるとARDSを発症する機序のひとつとなる可能性が示唆された。アナフィラトキシンと膜攻撃型後期補体成分複合体との関連を解析していく必要性がある。
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