研究概要 |
バルーン血管拡張術は、閉塞性動脈硬化症の低侵襲性治療として急速に普及してきているが、同時にその高い再狭窄率(30〜50%)のため満足する結果が得られていない。以前私たちは、再狭窄の主たる原因である内膜肥厚では、その形成期に特異的にPDGFα,β両受容体が活性化されていることを示した.本研究では、平成8年度にPDGF-B鎖の作用を特異的に阻害するPDGFXR(PDGFβ受容体の細胞外領域)をコードする遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターAxCAPDGFXRを作成し、それをバルーン障害したラット頚動脈に遺伝子導入することにより内膜肥厚の抑制に成功した.本年度ではさらに,AxCAPDGFXRをラット頚動脈障害血管に遺伝子導入することで内膜肥厚形成期におけるPDGFα受容体の活性化もほぼ完全に抑制されることより,PDGFα受容体の活性化がPDGF-B鎖によるものであることを証明した.一方Angiotensinllは従来より内膜肥厚形成に強く関与しているとされていたがその作用機序は不明であった。私たちは肥厚内膜細胞及び,それと形態機能的に類似しているといわれる出生直後のラット大動脈から樹立した培養平滑筋細胞を用いて,内膜肥厚に強く関与していると考えられているAngiotensinllとPDGFの関係を調べた.ノーザン解析にてAngiotensinllがPDGF-B鎖遺伝子を直接誘導し,ウェスタン解析にてPDGF-B鎖を培養上清中に分泌していることを突き止めた.さらにルシフェラーゼレポーターベクターにPDGFプロモーター領域遺伝子を組み込み(Sis-Luc)、PDGF-B遺伝子Promotor活性を検討したところAngiotensinllでルシフェラーゼ活性は上昇し、Angiotensinllが直接PDGF-B鎖遺伝子の転写活性を上昇させていることが判明した。このように,平成9年度では,Angiotensinllが肥厚内膜細胞し直接作用しPDGF-B鎖の産生を誘導することを明らかにすることでAngiotensinll-PDGF networkを解明し,内膜肥厚の発生機序の一端を明らかにした.
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