これまでにEPAとDHAの乳癌発生に及ぼす影響について検討してきた。一方、EPAとDHAは脂肪酸代謝産物アラキドン酸の分解調律酵素シクロオキシゲナーゼ(以下COX)の阻害剤として知られている。さらに最近、乳癌、胃癌、大腸癌組織におけるCOXの発現が報告されている。そこで、我々は今回、乳癌細胞におけるCOX発現の意義、特に浸潤能との関連について細胞レベルで検討した。癌細胞が毛細血管やリンパ管内外へ浸潤するときには、基底膜や結合組織の構成蛋白質を局部的に分解する蛋白分解酵素(メタロプロテアーゼ(MMPs))の作用が必要である。癌細胞が分泌するこのようなMMPsは現在までに10数種類同定されており、このうちMMP-2、MMP-9はゼラチン、IV型コラーゲンを分解する酵素活性を持つものとして知られており、乳癌との関連が報告されている。しかしながら、MMPとCOXの関係を直接検討した報告はみられていない。ヒト乳癌細胞株Hs578Tを用いて、MMP-9の発現と、COXとの関連について検討した。本来Hs578TはCOX活性を示さないが、1μMのTPAを加えて24時間培養したところ、薄層クロマトグラフィーにてCOX活性の誘導が観察された。COXにはCOX-1とCOX-2の2つのアイソザイムが知られているが、Western blot analysisでは、COX-2が強発現していた。同時に行った、gelatin zymographyでは、TPAの添加前はMMP-2活性を認めるのみであったが、添加後にはMMP-2に加えMMP-9のバンドの出現が認められた。次に、TPA存在下にCOXの阻害剤であるインドメタシン(以下IM)を加え、同様の測定を行ったところ、MMP-9発現はIM濃度依存性に低下した。以上より、MMP-9発現にはCOX-2活性の有無が重要な役割を果たしているものと考えられた。
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