研究概要 |
中鎖脂肪酸脂肪乳剤(MCT)の代謝は、血管内での加水分解、組織への取り込み、細胞内代謝を通じて長鎖脂肪酸脂肪乳剤(LCT)に比べて速いとされている.従ってMCTはLCTに比べて速い速度で投与してもよいと考えられがちである.本研究はインスリン・トリグリセライド同時クランプ法を用いてMCT/LCT混合脂肪乳剤の至適投与速度を健康成人男性を対象として検討した.使用したLCTは20%ダイズ油であり、MCT/LCTはトリカプリリン/ダイス油=重量比:1の10%blended mixtureである.ブドウ糖を0.32g/kg/hで定量投与して得られるインスリン・クランプ(11μU/ml)中に、MCT/LCT群でΔ1.65±031mmol/l、LCT群で1.08±0.18mmol/lにトリグリセライド(TG)を150分間クランプした.TGクランプ中に投与されたMCT/LCT,LCTの総投与量から至適投与速度を算出した.その結果重量ベースからみた至適投与速度はMCT/LCT群で0.125±0.013g/kg/hであり、LCT群では0.117±0.021g/kg/hで差を認めなかった.これに対してモル・ベースから計算した至適投与速度は、MCT/LCTで0.203±0.021mmol/kg/hであったが、LCTは0.132±0.023mmol/lとなり、MCT/LCT分子はより多く加水分解されていることが判明した.臨床では脂肪乳剤の投与速度はg/kg/hで算出されるのが一般的であり、この意味より、MCT/LCTはLCTに比べて速い速度(g/kg/h)で投与可能と考えるのは誤りである.今後手術侵襲後の患者での至適投与速度を決定する必要がある.
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