C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)発現非増殖性アデノウイルスを作製し、血管平滑筋細胞に対する増殖抑制効果をβ-ガラクトシダーゼ発現ウイルスを感染させた対照群と比較した。CNP発現ウイルスを感染させた培養血管平滑筋細胞におけるCNP産生は培養血管内皮細胞の約4000倍であったのに対し、対照群ではCNP産生は認められなかった。これに伴ってCNP発現ウイルス感染群ではcyclic GMP産生も著明に増加し、対照群に比し34%の増殖抑制効果が認められた。 次に子牛血清にて増殖を刺激した培養血管平滑筋細胞にこれらのウイルスを感染さ、flow cytometryによる検討を行った。対照群では35%の細胞が細胞周期のG2/M+S期にあったのに対し、CNP発現ウイルス感染群では14%の細胞がG2/M+S期であり、過剰発現したCNPは血管平滑筋細胞の増殖を細胞周期のG1期で停止させることが示唆された。これらの細胞におけるcyclinの遺伝子発現をRT-PCR法で検討すると、CNP発現ウイルス感染群では対照群に比し、cyclin Aの発現が遅れて認められ、これがCNPによる細胞周期制御の機序の一つであることが示唆された。次にin vivoにおいて、バルーン傷害後のウサギ大腿動脈にこれらのウイルスを感染させ、2週間後の血管の組織像を見ると、対照群では内膜中膜面積比が0.81であったのに対し、CNP感染群では0.38%と53%の新生内膜増殖抑制効果が認められた。このことから増殖性血管病変に対し、血管壁局所におけるCNPの過剰発現はin vivoにおいても血管平滑筋細胞増殖抑制に働くことが明らかになった。以上のことからCNPはオートクリン、パラクリン因子として将来的に増殖性血管病変に対する遺伝子治療の手段として利用可能であると考えられた。
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