研究概要 |
分子生物学の発達により遺伝子変異による癌化や悪性化の仕組がわかってきた。現在までに分かっている2つの癌化機構は、染色帯の不安定さを伴い幾つかの癌抑制遺伝子の変異が主体となる経路と、遺伝子不安定性を示しDNA複製に伴うミスマッチ修復不全が原因となる経路であるが、後者の経路に関与する癌関連遺伝子群はあまり良く分かっていなかった。我々は癌特異的に発現しているODC(GTP添加で酵素活性が上昇し、生化学的動態が異なる)が、後者の経路の大腸癌で特異的に発現していることを見い出し、このODC遺伝子の変異について解析を重ねた。しかし、first intronのmicrosatellte領域にmutationが高率に起こっていることは確認したが、Sothern-blot,PCR-SSCP,sequence等で蛋白コード領域のDNAには変異はなかった。 その過程で細胞周期に関与する遺伝子の一つで重要な転写活性因子E2F-4の蛋白コード領域にmicrosatelliteが存在することに気付いた。大腸癌手術症例の検討で、遺伝子不安定性を示す癌だけにE2F-4遺伝子の高率な突然変異を見いだし報告した。その後、我々の共同研究者であるメルツアー博士のグループは、さらに胃癌や潰瘍性大腸炎に伴った腫瘍において同様の遺伝子変異を高率に見つけ、我々と共同でCancer Res.に報告した。さらに、E2F-4の変異の前に、mutator遺伝子MSH3の突然変異が起こり、これが引き金になってE2F-4の変異を生じることがわかりCancer Res.に報告した。このE2F-4全く新しい遺伝子変異がどような機構を介して癌化に関係しているのか現在検討中である。
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