遺伝子治療による移植自家静脈グラフト内膜肥厚予防に関する検討

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08671375
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 古森 公浩 九州大学, 医学部, 講師 (40225587)
• キーワード: 自家静脈グラフト / 内膜肥厚 / 異常血流

研究概要

1.移植自家静脈グラフトの内膜肥厚は異常血流条件下で増強される事を、今までに我々の犬poor runoffモデルを使用し報告してきた。今回、臨床でも実際に施行される腰部交感神経切除術が自家静脈内膜肥厚にどのような影響をあたえるのか検討した。実験方法:まずpoor runoffモデルを両側の犬大腿動脈に作成後、安定した5週後に腰部交感神経切除術を一側に施行するとともに、両側に大腿静脈をreversed vein graftとして移植した。その後5週後に両側の自家静脈を摘出し、血流量、組織学的に内膜肥厚、等尺性収縮張力法にてendothelium-derived relaxing factor(EDRF)産生能を比較検討した。結果:血流量は交換神経切除施行群で有意に増加していた。内膜肥厚は両群間で有意差はみられなかった.ACh,ADPおよびA23187による内皮依存性弛緩反応は両群間で有意差はみられなかった。結論:腰部交感神経切除術は血流量は有意に増加するが、自家静脈内膜肥厚は抑制しなかった。この要因のひとつとして血小板凝集抑制作用を持つ内皮細胞のNitric Oxideの産生能に変化がない事に因るのではないかと考えられた。
2.セロトニン(5HT)及びエンドテリン(ET)の反応を正常静脈および正常血流及び異常血流条件下に移植した自家静脈グラフトで比較検討した。実験方法:poor runoffモデルを一側の犬大腿動脈に作成後、両側に大腿静脈をreversed vein graftとして移植した。その後4週後に自家静脈を摘出し、等尺性収縮張力法にて5HTおよびETの収縮の程度を比較検討した。結果:ETは正常静脈および血流条件にかかわらず静脈グラフトも濃度依存性に同様の収縮が認められた。一方、5HTは正常静脈では小さな収縮しかみられないのに対し、移植グラフトでは有意に大きな収縮がみられた。この収縮の大きさは血流条件に影響をうけなかった。また、外膜剥離操作を加えて4週後に摘出した静脈グラフトは正常静脈グラフトと同様に小さな収縮しかみられなかった。結論:セロトニンは静脈グラフトで有意に大きな収縮を発生し、移植静脈グラフトの血栓性閉塞の機序の一つとして、このセロトニンの過剰収縮反応の関与が示唆された。また、この過剰収縮の原因は外膜剥離などの手術操作によるものではなく、動脈環境下でのadaptationの関与が示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Funahashi S, Komori K,et al.: "Effects of lumbar sympathectomy on the properties of both endothelium and smooth muscle cells of the canine femoral artery and autogenous vein grafts under poor runoff conditions" J.Surg Res. 64. 184-189 (1996)
• [文献書誌] Komori K,Okadome K,et al.: "Simultaneous resection of abdominal aortic aneurysm and gastrointestinal malignancy" Asian J Surgery. 19. 19-22 (1996)
• [文献書誌] Komori K,Okazaki J,et al.: "Comparison of retroperitoneal and transperitoneal approach for reconstruction of abdominal aortic aneurysm in patients with previous laparotomy" Int J Angiol. (in press).
• [文献書誌] Komori K,Kuma S,et al.: "Percutaneous cardiopulmonary support in surgery for descending thoracic aortic aneurysms" Int J Angiol. (in press).
• [文献書誌] Mawatari K,Komori K,et al.: "The inhibition of canine vein graft intimal thickening using a newly developed antiplatelet agent" J Cardiovasc Surg. (in press).
• [文献書誌] Mawatari K,Komori K,et al.: "The effects of serotonin and endothelin on the smooth muscle cells of autogenous vein grafts" Br J Surg. (in press).