研究概要 |
外科手術に伴う病態の形成には活性化された血管内皮細胞から産生されるさまざまな因子が関与している。本研究では活性化内皮細胞の発現する接着分子(特にICAM-1)に着目し、そのmRNAに対するアンチセンスアデノウイルスベクターを作成して接着分子発現を抑制することを研究の目的として実験を行った。 まずTNF_αで刺激したヒト血管内皮細胞から細胞内RNAを取り出し、逆転写反応でcDNAを作ったのち、ICAM-1,VCAM-1,E-selectin,PDGF-A chainのcDNAを特異的なプライマーを用いたPCR法で増幅し、そのPCR産物をプラスミッドの中に組み入れてサブクローニングして、制限酵素消化およびシークエンシングなどで塩基配列を確認した。さらにそのサブクローニングした部分的なcDNAを切り取り、アデノウィルスベクター作成に必要なコスミッドベクターへ組み入れ、アデノウイルスDNAとともにco-transfectした293細胞の中で相同組み換えをおこし、ICAM-1,VCAM-1,E-selectin mRNAに対するアンチセンスアデノウイルスベクターを作成した。臨床的に抗炎症作用が一番期待されるICAM-1 mRNAのアンチセンスアデノウイルスベクターをヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に遺伝子導入し、RT-PCRで遺伝子発現を確認し、サイトカインで刺激し、ICAMの細胞表面での発現をみたところ、アンチセンスアデノウイルスベクターによる抑制効果は見られなかった。このことは以前、ヒトインスリンのアデノウイルスベクターをHUVECに導入してインスリン蛋白を確認し、インスリンのcDNAを逆方向にいれ作成したアンチセンスアデノウイルスベクターを追加投与して蛋白発現の抑制を試みたが、抑制できなかったことと類似していた。その原因としてPCRで作成したcDNAが145bと小さく、antisense mRNAができる際に発現カセットの中の余分な配列も加わり、antisense mRNAとして十分にsense mRNAと結合しなかったのか、常にアンチテ-ゼとして言われているようにantisense mRNAの効果が本当は起こり得ないのではないか、などのことが考えられた。
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