まず我々は、ヒト乳癌細胞株MCF-7に血管新生促進因子fibroblast growth factor(FGF)-4と遺伝子マーカーlacZを導入したMKL-4細胞株を樹立し、ヌードマウスに移植することにより広範に自然転移を起こす乳癌転移実験モデルを開発した。さらに、臨床により近い実験モデルの開発を目指し、原発腫瘍を切除し、その後の微小転移進展を観察した。その結果、腫瘍切除が微小転移進展を促進することが判明し、「乳癌術後補助療法実験モデル」が完成した。本モデルを用い、術後補助化学療法薬として汎用されている代謝拮抗物質UFTを腫瘍切除直後より投与すると、微小転移進展が有意に抑制されることを確認した。これらの結果は、血管新生促進増殖因子の発現亢進が乳癌悪性度の進展(ホルモン依存性消失、転移能の獲得)において重要な働きをしていることを示している。そこで、我々が樹立したヒト乳癌細胞株(KPL-1、KPL-3C、KPL-4)を用い、1)乳癌悪性度の進展(とくにホルモン療法抵抗性発生)における血管新生促進因子発現の役割、2)骨転移の成立に関連するparathyroid hormone-related protein(PTHrP)やinterleukin-6(IL-6)の乳癌細胞における発現の制御、に関し検討した。その結果、1)FGF family、vascular endothelial growth factor familyの発現亢進と乳癌ホルモン依存性消失との関係、2)エストロゲン、抗エストロゲン剤、黄体ホルモン剤によるPTHrPやIL-6の発現調節機構やその臨床的意義、に関し興味深い研究結果を得た。これらの研究結果は、米国癌学会、米国臨床腫瘍学会、欧州乳癌学会、日本乳癌学会、日本癌治療学会などで発表し、いくつかの論文にまとめた。
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