研究概要 |
拒絶反応や血行障害など移植肝特有の原因がないにもかかわらず、生体部分肝移植例で時に感染に起因した胆汁うっ滞型肝不全をきたすことがある。この一因として、NOに起因した肝細胞障害を想定し、その発生機序を明らかにするとともに、肝不全発生の予防法を検討することを目的とした。(1)Et投与による肝障害発生の機序に関する検討:ラットを用い肝門部で左内側および左外側葉に分岐する血管を結紮し、肝の70%領域の流入血行を永久遮断した群(I群)、同領域の肝動脈結紮群(II群)、門脈結紮群(III群)、70%肝切除群(IV群)を作成し、術語2日目にEtを1mg/kg静脈内投与した。死亡率はI群で75%、II〜IV群では0%であった。従って、血行障害肝が存在するとEt負荷により容易にショック、臓器不全を惹起することが明らかになった。(2)肝障害発生時のNOの関与に関する検討:近赤外分光法(NIR)を用い、HbNOを経時的に計測し、肝障害発生時のNOの関与を検討した。i)上記ラットでEtを静注後に、4時間に亘りoxyHb,deoxyHb,oxCyt,redCyt,HbNOを10〜20分毎に測定した。HbNOはEt投与後1時間までは徐々に減少したが、II〜IV群ではその後は回復した。ii)大動物におけるHbNOの評価をビ-グル犬を用い、肝流入血行遮断を30分間行いその後再灌流するモデルで行った。血行遮断により肝組織HbNOは減少したが、再灌流によりHbNOは有意に増加した。iii)NIRによるHbNOの測定は、定量生に乏しいのでオゾン化学反応法によるnitriteおよびnitrateの定量を試みた。まず、1%Nalおよび0.1MVCl_3を血清に添加してnitriteおよびnitrateを還元し、NOガスに変換した。これをオゾンと反応させ、その化学発光強度から血清NO値が定量的に測定可能となった。正常豚血清の値は15〜40μMであった。(3)肝移植後のEt負荷時NOの変動とNOS阻害剤の効果:豚で全肝移植を行い、術後5日目に全麻下にEt10mg/kgを静注した。経時的に肝静脈血および末梢血を採取し、血清NO値の変化を目下検討中である。またNOS阻害剤のNO発生抑制効果は今後の検討課題である。
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