研究概要 |
本研究では胆道のさまざまな疾患において胆汁の分子生物学的分析を利用することにより,腫瘍・非腫瘍の鑑別,悪性・良性の鑑別を容易にし,さらに胆道腫瘍の早期発見のためのスクリーニング法を確立することを目的とした.その基礎研究として,乳頭部癌の分子生物学的特徴を臨床病理学的に検討した.すなわち,乳頭部癌におけるp53蛋白およびp21/Waf1蛋白のoverexpression,K-ras codon12 点突然変異について検索した. 対象は乳頭部癌切除例37例(平均年齢65歳,男女比24:13).である.ホルマリン固定パラフィン包埋切片をp53モノクローナル抗体(Do7)を用いて免疫組織化学的に染色した.Image cytometry(CAS200R)を用い20視野を検索.染色された核面積の合計/全核面積合計を測定.陽性面積がp53では10%以上,p21/Waf1では5%以上を陽性とした.K-ras点突然変異は2-step PCR-RFLP法にて測定した.これらと肉眼型(潰瘍・非潰瘍),大きさ,組織型(腸型・胆膵管型),リンパ節転移の有無,術後生存率を検索した. その結果,p53染色陽性率は全体で16/37(43%)に認められた.p53陽性群に肉眼的潰瘍型が有意に高頻度に,リンパ節転移陽性例の頻度が高い傾向が,Kaplan-Meier法で予後の悪い傾向がみられた.p21/Waf1蛋白の発現は15/37(41%)に認められたがp53の発現と相関は認めなかった.K-ras点突然変異は14/37(38%)に認められ,胆膵管型に比し腸型に有意に高率に認められた. Direct sequenceでは突然変異はGATが9/14,GTT4/14に認められたが,このtypeと組織型には相関は認められなかった. 結論. 1.乳頭部癌ではP53のoverexpressionのみられる症例は生物学的悪性度の高い傾向にあること,2.p21/Waf1を介さない別のルートがあること,3.K-ras点突然変異は腸型の乳頭部癌の発生に関与する可能性が高いが,変異の型とは関係ないこと,が示唆された.
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