研究概要 |
癌治療の新しいストラテジーの1つに、プロドラッグを活性化する酵素遺伝子を癌細胞に導入し、選択的に抗腫瘍効果を得るという方法がある。5-FUのプロドラッグであるドキシフルリジンやテガフ-ルは、thymidine phosphorylase(TP)によって5-FUに変換される。本研究では、近年TPと同一の蛋白であることが明らかとなったplatelet-derived endothelial cell growth factor(PD-ECGF)cDNAをヒト肺腺癌cell lineであるPC-9に導入し、種々の検討を行ってきた。5-FUのプロドラッグであるドキシフルリジンやテガフ-ルは、TPによって5-FUに変換される。そこで、まず、これらプロドラッグに対する感受性の検討を行った。PD-ECGFのトランスフェクタントであるDPE2細胞のドキシフルリジン、テガフ-ルに対する感受性は、野性株のPC-9細胞と比べて、それぞれ167,26倍増強した。また、DPE2細胞を利用して、薬剤活性化遺伝子導入細胞に隣接する非導入細胞に対しても、薬剤の抗腫瘍効果が伝播するというbystander effectについての検討も行った。ドキシフルリジン存在下に、DPE2細胞と野性株PC-9細胞とを1対9の割合で混合培養した場合、bystander effect陽性の結果が得られた。さらに、double chamber modelを利用して、bystander effectに細胞の接触が必要でないことが証明され、これには、培地中に遊出する5-FUが、強く関与していることも明らかとなった。この事実は、遺伝子治療への可能性を示唆するだけでなく、癌組織中のheterogeneity、即ち組織内に高TP活性の細胞と低TP活性細胞とが混在している場合でも、これらのプロドラッグの効果が期待できることを示している。また、逆に、プロドラッグといえども、癌細胞内で一旦、5-FUに変換されると、それらの代謝産物は、隣接する正常細胞にも容易に移行し、副作用を起こし得ることも、示唆された。 一方、TPを新生血管因子としてとらえ、外科切除標本を対象にした検討も行った。大腸癌において、TP発現と癌組織内の微小血管数には、正の相関を認めた。他の新生血管因子であるVEGFと微小血管数にも正の相関が認められた。また、TP及びVEGFは、いずれも独立した予後因子となり得る事も報告した。その他、胃癌、食道癌を対象に同様の検討も行い、報告した。微小血管数は、予後因子として重要であるばかりでなく、新生血管阻害薬に対する反応の予測因子としても今後期待がもたれる。今後、上記トランスフェクタントを用いて、TPのもつ新生血管作用のメカニズムの解明、さらには、高TP活性癌組織の新生血管阻害薬に対する感受性の検討等について研究を発展させていきたい。
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