報告者らの研究目的は術後感染症に合併する肝不全の治療体系を確立するところにあった。そのためには、endotoxic shockあるいはseptic shock発生時に種々の作用を有すると考えられるcytokine networkの機序を解明し、それを抑制することが重要と考えられる。なかでもマクロファージにより産生されるTNF-αは、過剰産生により、生体障害的に作用するが、至適量では侵襲下にある生体に対して生体防御的に働くことが明らかにされている。一方、肝臓は生体のマクロファージの多くを有し、生体貧食機能の中心的臓器と考えられる。従って、侵襲時の肝マクロファージの活性の制御は、術後感染症に合併する肝不全の治療体系を確立するために重要であると考えられた。 そこで、これらの目的のために報告者らはlipopolysaccharide(LPS)投与によりsublet hal endotoxic shockモデルを作成しその病態の検索とともに、肝マクロファージの活性抑制作用を有するgadolinium chloride(GdCl3)投与の有効性について検討した。その結果1)endotoxic shockにおける死亡率にはTNFの関与はなく、マクロファージが産生するスーパーオキサイドが強く関与しており、さらにこのスーパーオキサイドの産生はGdCl3により抑制され、死亡率が著名に改善することが明らかになった。と同時に、組織学的にも肝細胞の障害が完全に回避されていた。2)脾臓のマクロファージは、肝マクロファージの活性を代償しない。3)CdCl3により肝マクロファージのpopulationに変化が認められた。4)報告者らのendotoxic shockモデルでは明らかに血管透過性が亢進しており、この血管透過性の亢進は、in vitroでGdCl3により抑制されることが明らかになった。以上、今回報告者が得た知見が、どのようなレベルで臨床に寄与するのかは不明であるが、侵襲下の生体防御機構解明における大きな礎といえる。
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