現在、肝細胞癌の多中心性発癌の診断法を開発し、その臨床的意義を臨床例で解析している。 HBV感染のある患者においては、HBVの肝細胞癌DNAへの組み込みパターンの差異を比較することによって確定診断が可能であり、この方法により5例の臨床例を分析し、重要な知見を得た。すなわち、従来の病理組織学的診断基準では診断困難な中分化から低分化肝細胸癌の多発例において、この分子生物学的診断法が極めて有用であり確定診断が可能であることを示した。また、本研究の主題である再発肝細胞癌のクロナリティーの診断においても、組織学的な診断では診断困難な、長期間を経た後の残肝再発の診断に、この分子生物学的手法が不可欠であることを詳細な臨床例の検討により証明した。さらにこの手法には、高分化な肝細胞癌のクロナリティーの診断には限界があることも明らかとした。 つづいて多中心性発癌診断の有用性を示す臨床例を解析した。従来局所療法の適応外とされてきたStageIV-A肝細胞癌のうち、多中心性発癌症例は発生様式から考えて局所療法が予後の延長に有用であるとの考えがある。そこで我々は、肝硬変を併存したStageIV-A肝細胞癌症例にマイクロウエーブ焼灼術を行い、腫瘍の完全冶癒という優れた結果を得た。このことから、多中心性発癌を解析することが臨床に直結した重要なものであることを実証したものと考え、この概念を広く知らしめるため症例報告として発表した。 今後は、微小な検体でも多中心性発癌が診断可能な分子生物学的手法を開発し、臨床応用したい。
|