研究概要 |
肝細胞癌では、多中心性発癌という特殊な発癌形態が存在するために他の消化器癌に比較して予後不良で、治療成績向上のためには多中心発癌の正確な診断とその制御が必要である。以上の観点から、多中心性発癌の分子生物学的診断法の有用性を検討し、これを応用した術後再発症例の再発様式に従った治療について検討した。対象は肝細胞癌切除症例263例で、分子生物学的検討はHBV関連肝癌5症例を対象にし、HBVDNAの組み込みパターンをSouthern Blot 法(SB法)により比較した。同時性に肝内に複数の結節が存在し、切除解析し得た4例のうち2例は組織学的診断基準より多中心性発癌症例と、1例は肝内転移症例と診断した。中分化肝細胞癌と低分化肝細胞癌が併存した1例はSB法でのみ多中心性発癌症例と確定診断された。初回切除から4年後に、異時性に再発した肝癌症例は、臨床的、病理学的に異時性の多中心性発癌症例と判断されたが、SB法により初回切除肝細胞癌の転移と確定診断された。再発肝細胞癌の治療成績では、再度の局所治療の施行例は27例(10.3%)で、29回の局所治療を施行した。このうち20例は多中心性発癌症例と診断(術後2例が肝内転移症例と判明)、肝内転移症例が5例、判定不能が4例であった。術前、多中心性発癌症例と診断した症例のうち16症例に再度肝切除を施行、3例にMTCを、1例にPEITを施行した。初回手術からの1年、3年、5年生存率はそれぞれ、MCが100、93.8、86.5%、MIMが100、57.1、19.0%で、両者間に有意差(p<0.01)を認めた。また、再治療後の1年、3年、5年生存率はそれぞれ、MCが100、66.8、44,6%、MIMが57.1、21.4、0%で、両群間に有意差(p<0.01)を認めた。 病理学的に肝細胞癌のクロナリティーの推定が可能な症例もあるが、確定診断には分子生物学的な方法が不可欠である。また、再発肝細胞癌症例の生存期間の延長は、肝切除を中心とした集学的治療が最も有効で再発腫瘍の発生様式に基づいた治療法を選択することによって、治療成績の向上が得られることが明らかとなった。
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