【基礎的検討】抗MUC1抗体による免疫組織染色にてMUC1抗原の発現を、正常膵、慢性膵炎、良性膵腫瘍、非浸潤性膵癌、浸潤性膵癌、肝転移巣にて観察した。その結果、正常膵、慢性膵炎および良性膵腫瘍では膵管上皮および腫瘍部にMUC1の発現を認めなかった。一方、54例の膵癌切除標本のうち、48例(88.9%)で強いMUC1の発現を観察し、肝転移巣では全くMUC1の発現を確認した。この事より、MUC1抗原は膵癌細胞にのみ発現しており、同抗原を認識するMUC1特異的CTLは正常膵を攻撃することなく、膵癌細胞のみを傷害することが確認された。【臨床的検討】上記実験結果に基づいて、切除不能膵癌3症例にMUC1-CTL療法を行った。十分なinformed consentを得た後、患者末梢血を当院にすでに設備されているフェレ-シシステムを使用し、リンパ球を分離し、同リンパ球とヒト膵癌細胞(YPK-1)を混合培養し、IL-2刺激によりMUC1特異的CTLを誘導、患者に移入した。誘導したCTLのリンパ球の分画をflow cytometryにより解析したところ、CD8陽性細胞が主体で、two color analysisにてCTLが多く誘導されたことを確認した。臨床効果は、1例において腫瘍マーカーの低下、全身状態の改善、腫瘍増殖抑制、および肝転移防止効果を観察した。現在症例を重ね、検討中であるが本療法の有効性が確認されつつある。
|