MUC1はムチンのコアペプチドであり、癌細胞において発現することが報告されている。そこで、膵管癌55例を対象に、抗MUC1抗体を用いた免疫組織染色を行い、全ての症例にMUC1発現を観察した。一方、正常膵では発現を認めなかった。以上より、MUC1を標的とする膵癌免疫療法は可能であることが示唆された。 基礎実験にて、MUC1を特異的に認識するcytotoxic T-lymphocyte(CTL)が誘導できた。また、このCTLはHLAに非拘束性であり、CD8陽性細胞であることが判明した。 膵癌切除症例に対して、膵癌細胞が高率に発現する糖鎖抗原MUC1を認識するCTL(MUC1-CTL)を用いた養子免疫療法を術後早期に施行した。<対象と方法>当科で経験した膵癌症例18例(切除例:10例、切除不能例:8例)に対して、十分なインフォームド・コンセントののちにMUC1-CTLを用いた養子免疫療法を施行した。切除例の内訳は男性6名、女性4名で年齢45〜73歳(平均62.5歳)、切除不能例の内訳は男性7名、女性1名であり年齢49〜73歳(平均61.5歳)であった。切除例については、根治度B以上が7例であり根治度Cは3例であった。MUC1-CTLは、患者末梢血からLeukapheresisにより分離したリンパ球と、MUC1発現陽性ヒト膵癌細胞株YPK-1とを、IL-2存在下に混合培養し誘導した。誘導したMUC1-CTLはMHC classI非拘束性でMUC1発現腫瘍を強く傷害した。移入は術後1週間前後の早期に施行したが副作用は認められなかった。<結果>切除不能症例については、最長生存期間が9カ月と不良であった。根治度B以上の治癒切除症例7例では術後2〜23カ月後の現在6例が生存しており、肺転移や局所再発はあるものの肝転移は認めていない。MUC1-CTL療法は、自己腫瘍細胞を必要とせず、術前からの誘導が可能であり、副作用もなく、膵癌の術後補助療法として肝転移予防に有用であると思われた。
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